< 私たちは何を守ろうとしているのか>伊藤千尋・9条講演・フェイスブックより

伊藤千尋         < 私たちは何を守ろうとしているのか>

昨日は都内で「ウクライナ問題と憲法9条」を講演しました。参加者は90人ほどで会場いっぱい。パワーポイントを作ったけれど手違いで上映設備がなく(笑)、マイクだけで1時間40分話しました。それがかえって良かったようで、みなさんずっと熱心な反応です。終わったあとは興奮状態で質問や意見のラッシュでした。

みんな、自分の思いを伝えたいのです。いいことです。講演会はともすれば学校の授業のようになりがちですが、参加した人が意見を交わすような場でありたいですね

その点、FBは理想的な語らいの場です。ただ制限なしですから、暴言も入ってきます。ロシアのテレビ局で反戦の紙を掲げた勇気ある女性を「あいつはやらせだ」という誹謗中傷が出回っているそうです。悲しいですね。さもしいですね。命をかけて行動に出た人の心を踏みにじるのは、彼女の人間性への侵略行為ですよ。

街頭で「憲法9条を」と声を上げたら「9条で国を守れるか」と罵声を受けて凹んでしまった、というメールをいただきました。ちょっと待って。僕は問いたい。私たちは何を守ろうとしているのでしょうか?

ロシアから侵略されたウクライナ軍に頑張ってもらってロシア軍を皆殺しにしろ・・・なんて言ってませんよね。世界の人々が掲げているのは「NO WAR」つまり、戦争のない世の中、平和です。戦争をやめろ、侵略者はただちに撤退しろと言っているのです。ウクライナ人に生きのびてほしいだけでなく、独裁者の手先とされたロシア兵も無駄死にせず命をまっとうしてほしいと願っているのではないでしょうか。

「9条で国を守れるか」と言う人は「武力には武力が必要だ」「敵は殺せ」と短絡的な発想をします。「国を守る」と言う発想は、国が違えば殺して当然となります。国境を境に常に敵を設定し、日本がロシアや中国を上回る武力を持たないと安心できないと考えるのです。その考えは容易に核兵器に結びつきます。現にそう発言する元首相がいます。

これって戦国時代ですよ。もっと言えば野獣の発想です。人間の考えではない。私たちは幸い戦国時代ではなく21世紀に生きています。その幸運を捨てて、この世界を再び戦国時代に戻すなら、歴史は私たちに人間失格の烙印を押すでしょう。

「きれいごとを言うな」なんて、言うなよ。そんなことを思うこと自体が自分の人間性をおとしめていることに気づいてほしい。今回の問題はプーチンの考えだけでなく私たちの考えの根底にあるものを問うているように思えます。

私たちが9条で守るのは、人間性です。だからこそ訴えは国境を越えて普遍性を持つのです。敵や味方を越え人間性を守って初めて世界は平和に行きつきます。9条が世界の人々から支持され世界の国がなべて9条を憲法に持つとき、世界は初めて平和になります。世界のだれもが安心して暮らすことができるようになります。そこは誇りを持って主張しましょう。

「9条で国を守れるか」という人には、最後には殺し合いになって人類が破滅に至ることへの想像力が欠けています。敢然と鷹揚に、優しく指摘してあげましょう。

冷静に考えてください。力の対決の発想に立つとどうなるか。いま、日本の防衛費は5兆3千億円です。岸田首相はそれでは足りないから倍にしようと言います。すると10兆円を超えます。でも、彼は満足しないでしょう。中国と同じレベルに行って初めて安心するでしょう。中国の2022年度の軍事費は27兆円です。日本もそこまで上げます?

いいえ、それにとどまりません。習近平は2030年度にはアメリカと同レベルにすると言っています。米国の22年度の国防費は87兆円ですよ。その先は減らすと言いますが、中国が上げるなら、米国も冷戦時代の対ソ連のように軍拡競争をするでしょうね。

日本もそうしますか?日本の年間の予算は100兆円規模ですよ。その9割近くを防衛費にします?それって戦争状態ですよ。いや、すでに年間予算の6割を軍事費に向けた状態で戦争状態です。そもそも生活できません。

こんな現実的な数字を挙げると、とたんに抑止論者は「いやあ、そこまで無理だから、今以上にアメリカに頼ろう」なんて言います。まさに植民地根性。米国だってカネがありません。その国の防衛はその国でやってくれ、という立場です。はねつけられますよ。

こんな抑止論者に罵倒されて凹むようでは、まだまだです。だからこそ話し合いをし、知識を吸収し、自分を磨くことです。暴言や中傷でなく、人間性からほとばしる真摯な話し合いから、より良い、より確かな世界を創り出そうではありませんか。画像は平和憲法を持ち、本当に軍隊をなくしたコスタリカの国会です。一つの方向を向いている日本と違って、ぐるりと囲んでみんなが討論することが形に現れています。ちなみに女性議員が46%、ほぼ半数を占めます。ここから見ても、日本はまだまだ力が優位の男社会なのだと実感しますね。